夏の終り近く、社長と二人で栃木へ小さな旅に出掛けました。
社長にとっての-父方の祖父母のお墓参りをする-というのが一番の目的でした。元来は彼一人のはずだったのです。けれど久しぶりの日光の如来寺で無事に目指すお墓を見つけることが出来るかが未知数で、父親より早く出掛ける段取りがついた私が同道する事になったという次第。
如来寺近くでお昼をいただいたお店では、とちおとめ日光天然氷も。「店名の玉藻って九尾の狐の化身って知ってるの?」と私。「知らん。」と社長。話はそれっ切りになりました。
翌日、神橋を眺めながら久方振りに訪れた日光東照宮陽明門は小雨の中、大修復を終えたばかりで燦然と輝いておりました。益子では懐かしい皆様と逢えて話に花が咲きました。帰りがけに猪口を社長に、私には湯呑みと書道の水滴を頂戴してしまいました。次の日には東京での約束も果たして無事に帰洛いたしました。
数日後、京都岡崎で能楽チャリティー公演が二日に亘って開催されました。数か月前にチケットは入手していて私が寄せていただいた日には何と「殺生石」がありました。
那須野の原という設定の舞台中央に置かれた作り物の黒い石が二つに割れて、中から白頭の後シテが現れて、なかなか迫力のあるお能でした。絶世の美女である玉藻の前は、実は九尾の狐の化身で、弓矢で射(い)殺された後も執心が固まって石となり、そしてその黒い石の近くを飛ぶ鳥をも落とす殺生石となったのでした。最後はワキの玄翁の唱える経に成仏するのですが、数日前に那須野の近くを訪れていた私には、一層心に迫るお舞台でした。
降って湧いた栃木の旅と、そのすぐ後でその場所を背景としたお能を拝見したこと、それも御縁かと思える夏の終りでした。

 

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